今回は、今話題のコンサル系企業・グロービング株式会社の考え方の軸について、お話ししたいと思います。
コンサルティング業界には長年、暗黙のルールのように根付いてきた慣習があります。高単価の人月ビジネス、実行よりも提言重視のスタンス、ブランド名で選ばれる採用戦略——こうした構造は、ファームにとって収益を生みやすい一方で、クライアントにとって本当に価値があるかという問いには必ずしも答えていません。
グロービングはこの問題意識を創業の原点に置き、業界の慣習を正面から否定する「6つのDon’t」を行動原則として掲げています。本記事では、この6つの原則の内容とその背景にある思想、そして大手コンサルティングファームとの本質的な違いについて解説します。
6つのDon’tとは何か
グロービングが定義する6つのDon’tは、同社の創業メンバーたちが大手ファームでの長いキャリアを通じて感じてきた「プロジェクトが失敗する根本原因」を反面教師として列挙したものです。それぞれが業界の実態を熟知した人間にしか書けない、具体性を持った言葉になっています。
ひとつ目は、デジタルを理解せず、業務を知らず、ビジネスを知らないまま戦略を描くことはしない、というものです。外資系戦略ファームに対してよく向けられる批判のひとつに、MBAホルダーの若手コンサルタントが現場を知らないまま高尚な戦略を作り上げてしまうというものがあります。グロービングはこの点を明確に問題視し、デジタルと事業の両方を理解したうえで戦略を描くことを全メンバーに求めています。
ふたつ目は、大規模なSIやBPOなど、自社ビジネスのボリュームゾーンを自作自演で作り上げることはしない、というものです。大手総合ファームの一部では、戦略フェーズで関係を構築したクライアントに対して、後続の実装・運用フェーズも自社グループで受注するという流れが生まれやすい構造があります。これはファームにとって収益拡大の機会である一方、クライアントにとって最適な選択とは限りません。グロービングはこの誘惑を明確に断ち切ることを宣言しています。
みっつ目は、本当のプロフェッショナルしか採用しない、というものです。規模を追うために採用基準を下げるという選択をしない、という意思表示です。前述のとおり、グロービングは外資系ファームの戦略チームで実績を持ち、かつ事業会社での経験も兼ね備えたエース級の人材を優先的に採用しています。約280名という規模はスタートアップとしても決して大きくはありませんが、それはこの原則を守り続けてきた結果でもあります。
よっつ目は、繰り返し使えるノウハウや知見はコンサルティングサービスとして提供しない、というものです。高い再現性を持つ分析手法や方法論をプロダクト化・インダストリアライズして安価に提供するという、クラウドプロダクト事業の根拠になっている考え方です。人月ビジネスの旨みを自ら手放すこの姿勢は、収益効率という観点からは不合理に見えますが、クライアントとの信頼関係を長期的に築くための投資と捉えることができます。
いつつ目は、本当に変革する気のないクライアントの変革ごっこにはお付き合いしない、というものです。コンサルプロジェクトの失敗事例として頻繁に語られるのが、経営幹部のアリバイ作りや社内政治のために外部ファームが使われるケースです。グロービングはこうした案件を明確に拒否する姿勢を示しています。クライアントを選ぶという行為は、短期的には機会損失を意味しますが、本気で変革を望む企業とだけ向き合うことで、プロジェクトの成功確率と質を担保しようとしています。
むっつ目は、すべてのサービス提供を自社で独り占めしない、というものです。強みを持つ他のファームやスタートアップとの積極的なコラボレーションを推進するという考え方で、クライアントにとっての最適解を追求するためなら自社の取り分を削ることも厭わないという意思表示です。
大手ファームとの本質的な違い
6つのDon’tを読み解くと、グロービングが大手コンサルティングファームに対してどのような問題意識を持っているかが浮かび上がってきます。
マッキンゼーやボストン コンサルティング グループに代表される外資系戦略ファームは、高い分析力と知的水準において圧倒的な強みを持ちます。しかしその一方で、実行フェーズへの関与が薄い、デジタル実装との連携が弱い、若手中心のチーム構成になりやすいといった弱点も指摘されます。アクセンチュアやPwCに代表される総合ファームは、戦略から実装まで幅広くカバーできる点が強みですが、グループ内での囲い込みが起きやすいという側面があります。
グロービングはこのふたつの類型のあいだに位置しつつも、どちらとも異なるモデルを追求しています。戦略の高度さを保ちながら実行まで伴走し、かつ自社利益よりもクライアントにとっての最適解を優先するという立場です。これは理念として語るのは容易ですが、実際のビジネスとして成立させるには相当の覚悟と仕組みが必要です。
Passion for Winnin」という哲学
6つのDon’tは単なる批判ではなく、グロービングが実現しようとしている姿を裏側から表現したものです。同社が掲げるコアバリューのひとつが「Passion for Winning」、すなわちクライアントを本気で勝たせることへの執着です。
耳触りの良い戦略を提供することよりも、クライアントが実際に競争に勝てる状態になることを最優先にする。そのためなら業界の慣習を壊すことも、自社の短期的な収益を犠牲にすることも辞さないというのが、この哲学の核心です。
創業メンバーが大手ファームを飛び出したのも、業界に対する批判があったからではなく、「本当に役に立つサービス」を実現するためには、既存の構造の外に出るしかなかったという確信からです。6つのDon’tはその確信を、行動原則として言語化したものといえます。
コンサルティングファームを比較検討する際、ブランド名や規模だけでなく、どのような哲学でサービスを提供しているかを見ることが重要です。グロービングの6つのDon’tは、その判断材料として非常に明快な指針を提供しています。転職・就職を考えている方にとっても、この原則に共鳴できるかどうかは、入社後の働き方や価値観の一致を測る重要な尺度になるはずです。
